なぜTikTokを「つい見続けて」しまうのか? SpotifyやTikTokが採用する「ベクトル検索レコメンド」実装論

AI参謀 GA

「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」ってよくみかけません?あの仕組みをちょっとだけ解析

ECサイトでよく見るこの機能。
しかし、表示されるのは「売れ筋の詰め合わせ」ばかりで、本当に自分の好みに刺さるものは出てこない……そんな経験はありませんか?

一方で、TikTokやSpotifyはどうでしょう。
使い込むほどに、まるで「自分よりも自分の好みを理解している」かのような、恐ろしいほどの精度でおすすめが表示されます。気づけば何時間も溶かしてしまう、いわゆる「沼」です。

この差はどこから来るのか?
その沼る技術は、従来の「ルールベース(条件分岐)」ではなく、「ベクトル検索(AIによる意味解析)」を使っているからです。

本記事では、ユーザーの「言語化できない好み」さえも数式で捉え、熱狂的なエンゲージメントを生み出すシリコンバレー標準のレコメンド技術を解説します。


目次

第1章:ルールベースの限界(人間には管理できない)

従来のレコメンドは、人間が定義した「ルール」で動いていました。

  • if (category == 'キャンプ') recommend ('テント');
  • if (buy_history includes 'ナイキ') recommend ('アディダス');

これは「自動販売機」と同じです。Aを押せばBが出る。 しかし、これには限界があります。

  1. ニュアンスが分からない: 「キャンプっぽい雰囲気の椅子」を探している人に、「ガチ登山の装備」を勧めてしまう。
  2. コールドスタート問題: 新商品は「購入履歴」がないため、誰にもおすすめされず埋もれていく。
  3. メンテ地獄: 商品が増えるたびに、人間がタグ付けやルール設定をするのは不可能です。

第2章:すべてを「数値」にするベクトル検索の魔法

SpotifyやTikTokは、コンテンツをジャンルというタグではなく「ベクトル(多次元の数値)」として管理しています。

「王様 − 男 + 女 = ?」

自然言語処理(NLP)の世界で有名な数式があります。
「王様」という単語から「男」の要素を引き、「女」の要素を足すと、AIは「女王」という答えを導き出します。

これがベクトル化の正体です。 AIは、画像、音声、テキスト、そしてユーザーの行動履歴を、数千個の数字の羅列(座標)に変換します。

  • 曲A(激しいロック): [0.9, 0.1, 0.8 ...]
  • 曲B(静かなジャズ): [0.2, 0.8, 0.1 ...]
  • ユーザー(あなた): [0.8, 0.2, 0.9 ...]

AIは、あなたの座標と「距離」が近いコンテンツを探すだけです。 そこには「ロック」というジャンル名は関係ありません。「激しさ」「テンポ」「雰囲気」といった抽象的な特徴が、数学的に近いものが選ばれるのです。

これが、ジャンルを超えて「あ、これ好き!」という曲に出会える理由です。


第3章:実装アーキテクチャ(OpenAI × Pinecone)

「そんな高度なAI、自社で作れないよ」 そう思うかもしれませんが、現在はAPIを使えば数行のコードで実装可能です。

構成要素

  1. AI (Embeddings): データを数値化する頭脳。OpenAI API (text-embedding-3) などが安価で高性能です。
  2. Database (Vector DB): ベクトルデータを保存し、高速に検索するデータベース。Pineconepgvector (PostgreSQL) が主流です。

実装フローの簡単3ステップ

  1. ベクトル化: 自社商品の「説明文」や「画像」をOpenAIに投げ、ベクトルデータに変換してDBに保存する。
  2. ユーザー解析: ユーザーが「閲覧した商品」や「検索した言葉」も同様にベクトル化する。
  3. マッチング: DBに対して「このユーザーのベクトルに、最も距離が近い商品を10個出して」とクエリを投げる。

これだけで、「アウトドア好きで、最近は北欧デザインを見ていて、価格は安め」という複合的な文脈(コンテキスト)を持ったレコメンドが完成します。


第4章:ビジネスへのインパクト(ROI)

単なる「面白さ」ではありません。ベクトル検索は明確な利益をもたらします。

1. 「ロングテール」が売れるようになる

従来のランキング方式では、上位10%の人気商品しか露出されませんでした。 ベクトル検索は「マイナーだけど、あなたの好みにはドンピシャ」な商品を掘り起こすため、死に筋在庫の消化率が劇的に改善します。

2. 「0件ヒット」でも機会損失しない

前回の「あいまい検索」と同様、検索キーワードと完全に一致しなくても、「意味が近いもの」を提案できます。
「冬用の暖かい上着」と検索して、商品名にその言葉が入っていなくても、「ダウンジャケット」や「コート」が表示されるようになります。

3. パーソナライズによる単価向上

「店員さんが、自分の好みを分かってくれている」
この体験は信頼を生み、LTV(顧客生涯価値)を高めます。ベクトル検索は、トップセールスの接客をシステム化する技術です。


まとめ:AIは「タグ」ではなく「意味」を理解する

もしあなたのサイトが、いまだに「手動のタグ付け」や「カテゴリの紐づけ」で関連商品を出しているなら、それは非常にもったいないことです。

ユーザーは「カテゴリ」が欲しいのではありません。 「自分の感性に合うもの」が欲しいのです。
これが、欲しい!という感情の正体なのです。

  • Spotifyのように、感性で繋がる音楽体験
  • TikTokのように、潜在的な興味を掘り起こす動画体験

これらを支える「ベクトル検索」を導入し、ユーザーを「沼」にハマらせるサイトへと進化させましょう


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👉 記事を書いた人

AI参謀GAくん | じーえーくん
tech leadかねやん | 金岡潤
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「システムも野菜も、鮮度が命。」
元メガ企業のSEとして、大規模サービスのバックエンド開発・アーキテクチャ設計に従事。その後、福岡に移住し起業。「八百屋」を地域No1にするという異色の経歴を持つ。 現在はBig Tech企業のモダンな開発手法(ベクトル検索、GraphRAG、エージェント技術など)を、地方企業や中小ビジネスの現場に落とし込むDX支援を行っている。 技術の複雑さを感じさせない設計、ビジネスの成果(CX)に直結させる「翻訳者」としてテックリードを担っている。

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