機能は足りているのに、なぜ売れない? 経営者が知るべき「非機能要件(UX)」の正体と、投資対効果の測定

「競合と同じ機能は実装した。価格も下げた。それなのに、なぜ顧客は離れていくのか?」

もし、あなたのサービスがこの壁にぶつかっているなら、見直すべきは「機能(What)」ではありません。

**「品質(How)」**です。

システム開発の現場には、**「非機能要件(Non-Functional Requirements)」**という言葉があります。

性能、信頼性、セキュリティなどを指す言葉ですが、多くの経営者やビジネスサイドの人間にとって、これは「エンジニアが気にするマニアックな指標」や「余計なコスト」に聞こえがちです。

しかし、断言します。

現代のビジネスにおける勝敗は、すべて「非機能要件」で決まります。

本記事では、難解な非機能要件を**「UX(顧客体験)」**というビジネス言語に翻訳し、経営者が投資判断を行うための新しいモノサシを提案します。


目次

第1章:「機能」はスタートライン、「非機能」は競争優位

まず、2つの要件の定義をビジネス視点で書き換えてみましょう。

機能要件 (Functional) = 「カタログスペック」

  • 定義: システムが「何ができるか」。
  • 例: 商品を検索できる、決済できる、会員登録できる。
  • ビジネス価値:「0 を 1 にする」
    • これがないと商売が始まりませんが、あっても差別化にはなりません。なぜなら、競合も同じ機能を持っているからです。

非機能要件 (Non-Functional) = 「ドライビング体験」

  • 定義: システムが「どれくらい快適か」。
  • 例: 検索が0.1秒で終わる、24時間止まらない、個人情報が漏れない。
  • ビジネス価値:「1 を 100 にする」
    • 顧客があなたのサービスを選び続け、ファンになる理由はすべてここにあります。

「機能要件」で顧客を呼び込み、「非機能要件」で顧客を定着させる。

この構造を理解することが、DX成功の第一歩です。


第2章:エンジニア語を「経営語」に翻訳する

エンジニアから「レイテンシを改善したい」「可用性を高めたい」と言われても、予算の承認は難しいでしょう。

そこで、以下の**「UX換算表」**を使って、技術用語をビジネスリスクに翻訳してください。

エンジニアの言葉 (技術指標)経営者への翻訳 (UX品質)ビジネスへの影響 (Risk & ROI)
レイテンシ (Latency)
「応答速度を200ms以内に」
待機ストレス (Stress)
「お客様をレジで待たせない」
離脱率・CVR
表示が0.1秒遅れると、売上は1%下がる。
可用性 (Availability)
「SLA 99.99%を保証」
営業時間 (Open Hours)
「24時間365日、店を開け続ける」
機会損失
書き入れ時に店が閉まっている(サーバーダウン)損失を防ぐ。
拡張性 (Scalability)
「オートスケーリング設定」
収容キャパシティ (Capacity)
「テレビCM中でも入店制限しない」
広告費のROI
せっかく集客したのに「満員」で追い返す無駄をなくす。
セキュリティ (Security)
「WAF / 暗号化」
ブランドの安全性 (Safety)
「お客様の財布を守る」
倒産リスク
情報漏洩による賠償金と、信用の失墜を防ぐ。

こう言い換えるだけで、「サーバー代」はコストではなく、**「売上を守るための保険」「店舗改装費」**へと変わります。


第3章:「遅い機能」は「壊れた機能」である

「機能さえ動けば、多少遅くてもいいだろう」

そう考えるのは、作り手側の傲慢です。

ユーザーの心理において、「反応しないボタン」は「壊れたボタン」と同義です。

どんなに便利な「AIレコメンド機能」を実装しても、その表示に5秒かかれば、誰も使いません。それどころか、「このアプリは重い」という悪評だけが残ります。

つまり、非機能要件(パフォーマンス)が満たされていない機能は、ビジネス上「存在しない」のと同じなのです。

「機能要件」と「非機能要件」は対立するものではありません。

「非機能要件(土台)」の上にしか、「機能要件(建物)」は建たないのです。


第4章:投資判断の基準「SLO」を策定せよ

とはいえ、「とにかく最高速で、絶対に止まらないシステムを作れ」というのは経営判断ではありません。それはただの無茶振りです。

品質を上げれば上げるほど、指数関数的にコストは跳ね上がるからです。

そこで経営者が決めるべきなのが、**SLO(Service Level Objective:サービスレベル目標)**です。

「松・竹・梅」で投資対効果を決める

エンジニアに以下の質問を投げかけてみてください。

  • 松 (0.1秒以内): 「Amazon並みの爆速体験」 → 予算 1,000万円
  • 竹 (1.0秒以内): 「ストレスのない体験」 → 予算 300万円
  • 梅 (3.0秒以内): 「我慢できる体験」 → 予算 50万円

「我々のビジネスにおいて、0.9秒の短縮に700万円の価値はあるか?」

これが、正しいIT投資の議論です。

ECサイトなら「松」が必要かもしれません。社内システムなら「梅」で十分かもしれません。

技術の話ではなく、**「顧客にどのレベルの体験(おもてなし)を提供したいか」**というブランド戦略として、
非機能要件を定義してください。


まとめ:UXは「おまけ」ではない

「非機能要件」という名前が誤解を招いています。

これからは、こう呼び変えましょう。

**「ビジネス品質要件」**と。

  • 機能要件で、顧客の課題を解決する。
  • 非機能要件(UX)で、顧客の心を掴む。(おもてなし)

この両輪が揃って初めて、デジタルサービスは収益を生み出します。

エンジニア任せにせず、経営層こそが率先して「品質への投資」を決定してください。


👇 【技術編】では、具体的にどう実現する?

【インフラ】Amazonはなぜ「0秒」で切り替わるのか?

「松(0.1秒以内)」の体験を実現するための技術的なアプローチ(知覚パフォーマンス制御)について解説しています。経営判断を下した後の、現場の実装ガイドとして。

👉 記事を読む:知覚パフォーマンスの設計論と実装パターン

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👇 【品質維持】投資した「速さ」を維持する仕組み

【運用】「遅くなった」を感覚で語るな。パフォーマンス予算の自動監視

一度達成した「非機能要件」を、機能追加のたびに劣化させないための「守りの自動化(CI/CD)」について解説します。

👉 記事を読む:GitHub Actionsによる品質監視の自動化:::

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