「東京のオフィスでは爆速なのに、福岡の実家で開くと遅い。」
Webサービスの開発現場でよくある怪奇現象です。
エンジニアは「Wi-Fiが遅いんじゃない?」と言いますが、原因はもっと根本的な場所にあります。
物理的距離です。
光ファイバーの中を通る信号は、光の速さ(秒速30万km)で進みますが、実際にはルーターを経由するたびに遅延します。
東京のデータセンター(AWS ap-northeast-1)にあるサーバーまで、北海道や沖縄、福岡からアクセスするには、物理的な時間がどうしてもかかるのです。
0.1秒を削るためにコードを修正するのも大切ですが、もっと劇的な解決策があります。
**「ユーザーの家の隣に、サーバーを置けばいい」**のです。
本記事では、CDN(CloudFront)とエッジコンピューティングを活用し、物理的距離を無効化するインフラアーキテクチャを解説します。
第1章:光の速さには「限界」がある
まず、残酷な現実を直視しましょう。
Webページを表示するには、往復(ラウンドトリップ)の通信が必要です。
今のWebアプリは複雑化しており、1ページ表示するのにサーバーと50回以上往復することも珍しくありません。
- 東京 ⇄ 東京: 往復 5ms × 50回 = 0.25秒(速い)
- 東京 ⇄ 福岡: 往復 30ms × 50回 = 1.50秒(遅い!)
距離があるというだけで、福岡のユーザーは東京のユーザーより1秒以上も待たされているのです。これはUXにおける差別です。
どんなにReactをチューニングしても、この「物理の壁」は超えられません。
第2章:解決策「CDN」の再定義
この壁を壊すのが CDN (Content Delivery Network) です。
AWSで言えば Amazon CloudFront がこれにあたります。
CDNは、世界中(日本国内でも数十箇所)に「エッジサーバー」と呼ばれる拠点を張り巡らせています。
1. 静的コンテンツのキャッシュ(基本)
画像、CSS、JavaScriptなどの「誰が見ても同じファイル」は、オリジン(東京のメインサーバー)に取りに行かせず、最寄りのエッジサーバー(例:大阪エッジや福岡エッジ)から配信します。
これで画像表示は速くなります。しかし、現代のWebアプリはこれだけでは足りません。
**「ログインユーザーごとの出し分け」などの「動的処理」**が必要だからです。
第3章:サーバーレスの極致「Edge Computing」
ここからが本題です。
「CDNはキャッシュ(コピー)を置くだけ」という常識は、もう古いです。
今のCloudFrontは、エッジサーバー上で「プログラムコード」を実行できます。
これを Edge Computing(エッジコンピューティング) と呼びます。
何ができるのか?
例えば、「有料会員にはAのバナー、無料会員にはBのバナーを出す」という処理。
従来は東京のサーバーで判定していましたが、これを**ユーザーの最寄り(エッジ)**で実行します。
- 福岡のユーザーがアクセス。
- 福岡のエッジでプログラムが起動。
- Cookieを見て会員ランクを判定し、HTMLを書き換えて即座に返す。
- 東京のサーバーには1ミリもアクセスしない。
これにより、動的なページであっても、物理的距離の影響を受けない「0秒配信」が可能になります。
第4章:CloudFront Functions vs Lambda@Edge
AWSでエッジコンピューティングを実装するには、2つの選択肢があります。
適材適所で使い分けるのがアーキテクトの腕の見せ所です。
| 特徴 | CloudFront Functions | Lambda@Edge |
| 起動速度 | 超爆速 (サブミリ秒) | 普通 (数ミリ秒〜) |
| コスト | 激安 (リクエスト課金) | 高め (時間課金) |
| できること | 軽いヘッダー操作、リダイレクト | 重い処理、外部API通信 |
| 用途例 | A/Bテスト、JWT検証、URL書き換え | 画像変換、複雑な認証、動的HTML生成 |
推奨構成:
基本は、より新しく高速な CloudFront Functions を使ってください。
「URLの書き換え」や「ヘッダーの正規化」をここでやるだけで、キャッシュヒット率が上がり、オリジンサーバーへの負荷が激減します。
第5章:Next.js Middleware との融合
モダンなフロントエンド開発(Next.js)では、このエッジコンピューティングが標準機能として組み込まれています。
Next.js Middleware を Vercel や AWS Amplify にデプロイすると、自動的にそのコードはエッジに配置されます。
例)JavaScript
// middleware.ts (エッジで動くコードの例)
import { NextResponse } from 'next/server';
export function middleware(request) {
// ユーザーの国を取得 (エッジなら0秒でわかる)
const country = request.geo.country;
// 海外からのアクセスなら英語ページへ飛ばす
if (country !== 'JP') {
return NextResponse.redirect(new URL('/en', request.url));
}
}
エンジニアが意識せずとも、書いたコードが勝手に世界中に分散配置される。
これが現代のインフラの姿です。
まとめ:距離をハックせよ
Webパフォーマンスの改善とは、結局のところ**「ユーザーとデータの距離を縮めること」**に他なりません。
- 画像を軽くする(データ量を減らす)。
- サーバーを近づける(距離を減らす)。
もしあなたのサービスが「東京のサーバー1台」だけで運用されているなら、それは地方ユーザーのUXを捨てているのと同じです。
CloudFrontとエッジコンピューティングを導入し、日本中、いや世界中のユーザーに**「隣の部屋にあるサーバー」**のような体験を提供しましょう。
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👉 記事を書いた人

AI参謀GAくん | じーえーくん
tech leadかねやん | 金岡潤
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「システムも野菜も、鮮度が命。」
元メガ企業のSEとして、大規模サービスのバックエンド開発・アーキテクチャ設計に従事。その後、福岡に移住し起業。「八百屋」を地域No1にするという異色の経歴を持つ。 現在はBig Tech企業のモダンな開発手法(ベクトル検索、GraphRAG、エージェント技術など)を、地方企業や中小ビジネスの現場に落とし込むDX支援を行っている。 技術の複雑さを感じさせない設計、ビジネスの成果(CX)に直結させる「翻訳者」としてテックリードを担っている。

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